2017年11月19日日曜日

愛着と精神分析 3

ところで論文の正式なお題は、「愛着理論から見た発生論」である。でも私は発生論がよくわかっていない。ということで精神分析学事典(岩崎学術出版社)にあたってみた。以下は小此木先生の記載。PDFしたものからOCR変換したものを基にしているから、誤字を直すのが大変であった。性は「小生」になっちゃうし、肛門は「月工門」になっちゃうし。それとたいてい 」 は j になってしまうのだ。

発生論的観点  [] genetic point of view
すべての心的現象は,その心理的な起源と発達に関する命題を含蓄するという観点で,フロイト FreudS.はこの観点を慨念化しなかったが,実質的にはその精神分析理論にとって最も基本的な観点であった。ラパポート RapaportD .とギル GillM.M は,この発生論的な観点について次のような命題を明らかにしている。第1に,すべての心的現象は心理的な起源と発達を持っている。第2に,すべての心的現象は心的な資質に起源を持ち,漸成説的な方向に従って成熟する。第3に早期の心的現象の原型は後期のものに覆われてはいても,なおも活動的となる可能性を持っている。第4に,心的発達過程において早期の活動可能性のある原型が後期のすべての心的現象を決定する(例えば二相説,反復強迫これらの命題は,精神性的発達論とその発達図式における固着と退行の論議の形でまずフロイトによって提起された精神分析の伝統的な発生的な観点の基本的な命題であるが,さらにハルトマンHartmannH. は先天的に与えられた素質によってプログラムされた準備体制 readiness をつくる成熟 maturation と環境との相互作用の中で, それらの心的な機能が実現する発達 development という自我の発達図式を提起した。精神分析のそれぞれの流れは,この発生論的観点に立ったそれぞれに特有な発達図式 developmental schema を提出している。例えばフロイトの精神性的発達論(口愛期から肛門期,男根期さらに性器期へ),スピッツ SpitzR.のオルガナイザー organizer のモデル,あるいはマーラ一 Mahler M の分離個体化,アンナ・フロイト FreudA.の発達ライン,エリクソン EriksonE. H. の心理社会的漸成説,クラインKleinM の妄想・分裂ポジション,抑うつポジション,ウィニコットWinnicottD. W.の絶対的依存から相対的依存へ,未統合から統合へ,メルツアー MeltzerD の心の次元論などは,いずれもこのような発達図式論の典型で,常に段階 stage とか相 phase という概念を含み,それぞれの段階に応じて心的な機能と対象関係の水準は変遷すると考える。さらに,この観点は,エリクソンによってより包括的なライフサイクルの観点へと発展した。しかし一方では,成人の精神分析療法の中で再構成されたこれらの発達図式論やモデルを,生物学的な基礎を持ち,乳幼児の直接観察や児童分析によって観察される時間的 chronological な発達との対応関係を持つ発達過程としてとらえる考えに疑問と批判を提出する動向が見られる。例えばクラインのポジションの考え方のシュタイナー SteinerJ らによる大幅な修正に見られるように,この発達図式は生物学的・時間的発達との対応関係から自由なそれぞれの心的状態とその推移をあらわす力動的概念として用いるべきであるという主張が次第に有力なものになり始めている。この動向は,発生論的観点から生成分析論的な観点への移行を意味している。しかし,その一方で,乳幼児研究 infant research と母子相互作用の研究の知見を成人の精神療法理解と結びつける新たな動向も生まれ,このような発達観察と臨床的認識との栂互関係を理解する方法論的概念として,スターン SternD . N.は,被観察乳児 observed infant と臨床乳児 clinical infant の概念を提起している。(小此木啓吾)