2017年11月13日月曜日

公認心理師に向けて 推敲 ①

今日は対象関係論勉強会の午前中の講師を務めた。向学心に燃えた方々100名以上を前に、「治療同盟」についての講義を行った。時間がなくて話せなかったことは、どのような人となら私たちは共同作業が出来るかを問うことが、この問題を考える上で重要だということである。私だったら、仕事のパートナーとしては、次のような人を望む。
表裏のないこと。
嘘のないこと。
こちらに信頼を寄せてくれること。
過剰な猜疑心を持たないこと。
過剰な理想化をしないこと。
相手に対して最小限の気遣いを見せてくれること・・・・。 
 これらはことごとく作業同盟の基本部分を構成する。そして作業同盟を築く能力は、両方向性である。バイジーは、患者は、バイザーが、治療者がその能力を有するかどうかを判断する立場にある。バイザーが、治療者が、より人間的に優れているという保証がない以上、バイジー、患者の立場もまた相手の作業同盟を築く能力を査定していることになる。この両方向性を無視した作業同盟の議論は極めて不完全になってしまうのである。




公認心理師にむけて

私のこの発表は、医師の立場からでもあり、もちろんここは分析学会ですから、分析の立場からということでもあります。
発表された公認心理師のカリキュラムでは、医療保健分野の実習が必須としていることからも、そこには精神医学の立場からも様々な思惑があることは明らかでしょう。精神科医がどのような要望を公認心理師に対して持っているかは、精神神経学会からの意見書にその立場を見ることが出来ます。20163月に、「公認心理師法カリキュラム作成に際しての要望書」が提出されていますが、ここに書かれている具体的な7つの項目のうち、「精神医学をしっかりトレーニングせよ」という主張は一か所しかないのです。むしろ「しっかりと実習期間を設けてほしい」という要求が繰り返し出てきます。これは見方によっては、「心理師は精神医学の基礎知識は必要だが、それにもまして現場で即戦力となる人材となってほしい」という要望のように読めます。そしてそれは現場における切実な願いなのかもしれません。
私が伝え聞いた話は、おそらく公認心理師は、最初は精神科病棟へ配置されるという形で現場に導入されていくという観測です。それはたとえば「心理師が配属された病棟での治療は、保険点数で○○点が加算される」というような具体的なインセンティブの形をとるでしょう。厚労省も文科省も、この制度を導入した以上はその成果を目に見える形にする必要が生じるでしょう。他方心理師が精神科の外来に入ることはその生産性に直接つながらない可能性があります。しかし病棟においては心理士が即戦力となり、その経済効果が期待されるということです。でもその「即戦力」とはいったいなんでしょうか?
私は病棟という現場で何が起きているかを、日本でも米国でもしっかり見て、体験してきました。病棟では様々な職種が入り混じる一方では、本来そのリーダー役として働くべき精神科医は様々な作業に忙殺されます。しかも医学部を出て勉強が出来た医師たちは、特段リーダーシップを取ったり全体をまとめる力に長けているというわけではないというのが私の印象です。彼らは病棟で処方を書き、患者の個別の面談に応じ、カルテ記載をし、病棟での会議に顔を出し、また外来に帰って行きます。医師は圧倒的にその時間的なプレゼンスが少なく、ときどきカルテにオーダーを書きに来て、患者に一言二言行って、時には現場を混乱させ、そのうちケータイで呼ばれてあたふたと病棟を出ていく、という印象を持たれます。