2017年5月5日金曜日

カオスの淵 ⑤

非線形性と自己組織化
 非線形性と同時に考えなくてはならないのが、自己組織化の概念である。非線形性の議論をすると必ず出てくる懸念の声がある。「それはでは人間の心は全くのでたらめなランダム性を伴ったものではないのか?」でも生命の起源を考えてみてほしい。様々な物質のスープの中から秩序が生まれ、生命が誕生するまでになった。なんと核酸の二重螺旋構造という、この世の中でおそらくもっとも秩序だった構造物を作り出してしまう。自然はまた「自己組織化」を行う能力を、本性として備えているのだ。しかしそれは常にランダム性、非線形性とペアになっているし、それだからこそ意味があるのだ。ここにも「儀式性と自発性」の弁証法が成立しているということか。ランダム性はその秩序が進化する力を生むという形で働いている。心の動きということに関しては、創造性という宝物を生むのだ。
 私たちが毎晩見る夢を考えよう。日常生活に由来する記憶の残渣や昔体験したちょっとしたエピソード、そしておそらく無意識的にすら体験していない可能性のあるファンタジーを構成する神経ネットワークのかけら。そこからあれほどの壮大なストーリーが出来上がるのである。私たちの心の自己組織化の最たる例と言えるのではないだろうか。