2017年5月23日火曜日

未収録論文 ⑰

自己心理学における無意識のとらえ方と治療への応用

最新精神医学 17 巻 6 号 2012 年に所収

 この「自己心理学における無意識のとらえ方と治療への応用」というテーマは、逆説的な意味を持っていることをはじめに述べておきたい。というのもコフートの提唱した精神分析理論やそれに基づく臨床は、無意識内容の追及を目標とする古典的な精神分析理論とはかなり趣を異にしているからだ。コフートは無意識の概念を直接に批判したわけではないが、その概念にあまり触れることなく、むしろ自己と他者との関係性にその関心を向けたのである。そしてそれがある意味では、彼独自の無意識概念の扱い方であったというのがこの小論の骨子である。

 「内省・共感」は無意識に向けられるのか?

 コフートが1971年に「自己の分析」(Kohut, 1971) により、独自の精神分析理論を打ち出した時、その理論的な構成が従来の精神分析とは大きく異なることは明白であった。特に自我ego に代わる自己 self の概念や、共感の概念は極めて革新的といえた。コフートはそれを従来の精神分析に対する補足であるとしたが、当時の精神分析界からはそのような受け止められ方をされなかったのも無理はなかったのである。 
 コフート理論の実質的なデビューは「自己の分析」に10年以上先立つ1959年の論文であった。「内省、共感、そして精神分析」(Kohut,1959)というその論文は、その後に展開する基本的な概念のいくつかを旗幟鮮明な形で打ち出している。それは「ミスター・サイコアナリシス」とまで呼ばれていたコフートが打ち出したまったく新しい路線だったのである。そこでこの論文をもとに、コフートにとっての無意識の概念について探ってみよう。