2017年5月12日金曜日

未収録論文 ⑥

転換・解離性障害  
(精神科治療学神科治療学25巻増刊号「今日の精神科治療ガイドライン」星和書店 2010年              

I. はじめに

転換・解離性障害は、従来ヒステリーと呼ばれていた病態が、現代的な解離の概念とともに装いを新たにしたものである。疾患概念としては、現在のICD-10におけるF44解離性(転換性)障害がこれに相当することになる。ヒステリーは従来は「解離ヒステリー」と「転換ヒステリー」という二つのカテゴリーからなる精神疾患の一つとして記載されてきた。そして1980年のDSM-III(1)以降、ヒステリーは解離性障害のもとに再分類され、上述の国際分類ICD-10 (7)もそれに従ったという経緯がある。解離の概念をいかに定義し、理解するかは立場によって微妙に異なるが、基本的には「意識、記憶、同一性、知覚、運動などを統合する通常の機能が失われた状態」(DSM、ICDにおける定義)とされる。そしてそのうち知覚や運動に解離の機制が限定された際には、通常は転換症状と呼ばれる。ICD-10には、それらは解離性運動障害、解離性けいれん、解離性知覚麻痺[無感覚] および知覚 [感覚] 脱失等として記載されている。
 またICD-10には、それ以外の解離性の障害として解離性健忘、解離性遁走、解離性昏迷、トランスおよび憑依障害が記載され、それに続いて「その他の解離性[転換性]障害」が挙げられているが、この「その他の・・・」が極めて多くの解離性障害を含み、同障害の分類がかなり錯綜している事情を物語っている。
 さらには解離性障害を解離性障害と一緒に同一のカテゴリーに分類するか否かについてのDSM-IV(2)とICD-10の間の齟齬が問題とされている。すなわちICDにおいては、「F44解離性(転換性)障害」という記載が示すとおり、両者は同じ項目に分類されているが、DSMでは、解離性障害は、独立したカテゴリーに分類されている一方で、転換性障害は「身体表現性障害」という別のカテゴリーの一角を占めることになる。解離の専門家からは、むしろICDの立場を支持する声が多いが(6)、Web上で確認する限り、ここに述べた事情は、2013年5月に刊行が予定されているDSM-Vにもそのまま踏襲されるようである。



(これからも延々と続くので、さすがに省略)