2017年5月10日水曜日

未収録論文 ④

「こころの科学」特集「トラウマ」(2012年9月号) に書いた論文。これもこのまま散逸する運命にあった。ちゃんと真面目に書いているなあ。

トラウマと解離 

はじめに
 本稿ではトラウマと解離との関係について考察する。ちなみにこの特集で用いられている「トラウマ」という表現は、最近頻繁にわが国の書籍や文献に見られるようになっているが、その用いられる文脈から、この「トラウマ」は心の傷、つまり従来「心的外傷」とか「精神的外傷」と表現されてきたものとみなすことが出来るため、ここでもそれに準じることにする。
 本稿の趣旨は、トラウマと解離性障害の疫学的な関連について述べることであるが、同時に最近の新しい動向、すなわち母子間の愛着の問題やストレスもまた解離の原因として注目されるようになっているという事情についても述べたい。
 心の傷としてのトラウマの概念への関心は、わが国でもここ20~30年の間に急速に高まってきた。そこにはアメリカの精神医学の診断基準であるDSMの1980年度版(1)に登場した心的外傷後ストレス障害(Posttraumatic stress disorder, 以下PTSDと表記する)の概念が大きく影響しているであろう。さらには1995年に私たちを襲った阪神淡路大震災や地下鉄サリン事件、そして昨年の東日本大震災が、私たちに心の傷の意味を考えさせる機会を与えたのである。
 解離性障害とトラウマについては、両者の深い関連性は精神医学的にはひとつの「常識」となっている。心に衝撃を受けた際の一過性の深刻な解離症状は、急性ストレス障害 Acute stress disorder (2)として知られ、さまざまな臨床研究がなされている。ショックを受けて一時的にボーッとなったり、今自分がどこにいるのか分からなかったり、まるで映画のワンシーンを見ている様な気がしたり、あるいはこれまでの人生で起きたことがパノラマのように目の前に現れたり、ということはみな解離の一種と考えられるわけだ。しかし繰り返される深刻な解離症状については、その原因ははるか昔の、幼少時にさかのぼることが多い。ここで深刻な解離症状とは、人格交代現象などを伴う、いわゆる多重人格、ないし最近では解離性同一性障害(dissociative identity disorder, 以下DID)と呼ばれる状態である。

  (この後も延々と続くので、省略)。