2017年4月7日金曜日

脳科学と精神分析 ⑤

さてダーウィン的な心の動きがここにどのように関係しているのだろう?
  質問を投げかけられたクライエントの心には様々な答えの候補が浮かぶであろう。「とても自由に話せる雰囲気です」(いちおう、ここでは肯定的な、リップサービス的な答えをしておこう。)以外にも「ちょっと堅苦しい感じもします。(先生が真面目そうだから、冗談もいえない感じだし…)「まだ始まったばかりでわかりません」(実際こんなことを真正面から聞かれても本音を言えるわけないし。それとも先生は私を試しているのだろうか?
 実際にはクライエントの側には、どんな感じかと聞かれても一つの答えは浮かばない。つまりいろいろな印象を持っていてどれ一つとして決められないからだ。しかし候補としては上の三つくらいが浮かんできたとしよう。あとは「…」の間にダーウィン的なふるいがかけられる。そして「自由に話せる雰囲気です」が出てくる。では、これが本心なのだろうか? 多分? ただし重要なのは結果的にこの一つの答えが出てきて、意識はその瞬間に、それを正当化するためのロジックを組み立てる一方では、他の二つを候補圏外にしてしまうという心の動きが起きる、ということなのである。
 では治療者のスタンスはどうだろうか? 「自由連想」だから沈黙を守るのだろうか? 私の見解としては、いかに psychologically minded な患者でも、決して、そのあと「えー、ちょっと待ってくださいね。他にもいくつかの答えの候補があります。もう一つは、例えばちょっと堅苦しい気がする、というもので、もう一つはまだ始まったばかりでわかりません。」とはならない。ここで治療者の決定的なフォローが必要になりはしないだろうか? 「それは一つのお応えだとして、他にどのような考えが浮かびますか?」そう言ってもらえて、初めて患者は「心の実況中継」を始められるようになるのだろう。