2017年4月4日火曜日

脳科学と精神分析 ③

新・無意識の性質
最近フロイトの無意識に代わって、脳科学の知見を取り入れたNew Unconscious 新・無意識の概念が提唱されている(Ran R. Hassin, James S. Uleman, and John A. Bargh (eds) 2006The New Unconscious. Oxford Press.) この性質についていくつか挙げてみよう。まずフロイトの無意識には欲動が詰まっていて、それが人を衝き動かすと考えられた。ところが「新・無意識」のどこを見渡してもリビドーも欲動もない。そもそもそのようなエネルギー源に相当するものがないのである。しかし正常な人の脳は、安静時に適度の活動量が見られる。活動だけはすでに宿命として与えられているのだ。おそらくそこに本能や報酬系が関与することで人は心を動かしているということになるであろう。この新・無意識をフロイトの構造論と照合するならば、新・無意識は、フロイトの自我、超自我、エスのほとんどを包含してしまうことになるだろう。他方では「意識」はワーキングメモリー程度でしかない。
ただしこの狭い意識の存在を過小評価しているわけではない。意識が存在しない心は人格を有していることにはならず、そもそも心ともいえないだろう。そもそも意識が析出するためには膨大な情報ネットワークの存在、Tononi の言うφの存在が前提となる。(Giulio Tononi, Integrated information theory of consciousness 2005)「新・無意識」の実体は巨大なニューラルネットワークであり、そこでは予測誤差を基にた強化学習(ディープラーニング、深層学習)が常に自動的に行われる。
「新・無意識」の実体は巨大なニューラルネットワークであり、そこでは予測誤差を基にした強化学習(ディープラーニング、深層学習)が常に自動的に行われる。
意識の次の内容は新・無意識でダーウィニズムに従って創り出され、それが主体性、自立性の感覚を伴って意識野に押し出される。(新無意識が意識内容を決める「サイコロを振って」いる。従って言動、ファンタジー、夢などは、その背後に明確な動因が存在しない場合が多い。(細かい複数の動因はたくさん存在し、それらが重層決定(フロイト)する)

一貫性、プライオリティ、排他性を満たした言動、ファンタジー、夢が「生き残」る場合が多い。