2017年3月20日月曜日

精神療法の強度 推敲 ③

精神療法の「強度」のスペクトラムという考え
そこで私は精神療法における「強度」のスペクトラムという考えを提示したいと思います。これは精神療法には、密度の濃いものから、薄いものまで様々なものがありますが、どれも精神療法には違いないという考え方です。これは私と一緒にやはり30分セッションをしていただいている7人の心理士さんたちの名誉の為でもあります。

 まずは精神療法の「強度」を単純に時間的な観点から考えましょう。つまり高頻度で行われる精神療法がより「強い」という単純な考え方です。それを図示したのが、図1です。縦軸には「強度」が示され、横軸には、セッションの間隔が示されます。一番左端に来るのはフロイトの週650分の強度(仮にこれを10としましょう)の精神分析です。通常の450分は、強度8くらいでしょうか。週一回は強度4くらいということにしましょう。そしておそらく左端近くには、私の患者Aさんの、3か月に一度15分が来るでしょう。これを強度0.5としましょう。(フロイトは、なぜ週6回会うのかと問われて「だって日曜日はさすがに教会に行く日だから会えないだろう」と答えたと言います。つまりフロイトにしてみれば週7回が本来の在り方だったのかもしれません。それを強度10とするならば、週4回は強度8くらいにしておかなくてはなりません。)
私が言いたいのは、強度は違っても、それぞれが精神療法だということです。その強度を決めるのは、経済的な事情であったり、治療者の時間的な余裕であったりします。患者の側のニーズもあるでしょう。一セッション3000円なら毎週可能でも、一セッション6000円のカウンセリングでは二週に一度が精いっぱいだという方は実に多いものです。あるいは仕事や学校を頻繁に休むことが出来ずに二週に一度になってしまう人もいます。その場合二週に一度になるのは、その人の心がけのせいとは言えないでしょうし、「二週に一度なら意味がないから来なくていいです」というのも高飛車だと思います。
私は週4回のケースを持っていますし、週4,5回の精神分析を5年ほど受けたこともありますので、この場でこのスペクトラムを話す権利を得ていると言ってもいいでしょう。そうでなければ「週4回のセッションを受けたり、行ったりしないで、お前に何が言えるのだ」という事になってしまいます。私はもともと非常に精神分析志向の人間でしたし、分析のトレーニング中に、2000ドルもかけて分析用のカウチを木工技師さんに特別発注し、今での私のかさばる財産になっています。まあ、それは余計な話ですね。
 このスペクトラムの特徴をいくつか挙げておきます。おそらくその強度に関しては、左端の精神分析から、右端の一番弱い精神療法までの右下がりの曲線で描かれていますが、それはあくまでもなだらかです。つまり、週に4回と3回で、あるいは週1回と二週間に1回、あるいは週一回のセッションが45分と35分とで、そこに特別な段差があるとは思えません。それを行っている治療者のメンタリティーは基本的には変わりはありませんし、そこには決まった設定、治療構造のようなものが少なくとも心の中では保たれていると考えています。私は精神分析は週4回以上、ないしは精神療法なら週1回以上、という敷居は多分に人工的なものだと思います。そうではなくて、左から右に移行するにしたがって、強度が低まり、ほかの条件が同じならそれだけ治療は効果が薄れていく。やっていて物足りないと思う。そしていわゆる「深いかかわり」は起きる頻度も少なくなっていくでしょう。それはそうです。何しろ四輪駆動が軽になるわけですから。でも繰り返しますが、軽でも行ける旅はありますし、ひょっとしたら非常に印象深いものにもなるでしょう。