2016年2月29日月曜日

報酬系と心(19) So called SP (30)

 さて、走性を示すC.エレガンスより一歩進んだ例として、我らが鮭を考えることができるだろうか?最初は考えた。しかし違うと思いなおした。最初の発想はこうだ。Cエレガンスはすでに尿中の微かな匂い(微量物質)を感じ取り、その濃度勾配のある方向に進むという仕組みさえあればいい。でも鮭は違う。彼女(一応メスを考えている)は、川の上流の岩場や、そこで待ち受けているオスを思い描いて、そこを一心に目指すのだ。心にイメージを浮かべてそれを目指す、というのはすごいことである。なぜならば、その時に報酬系は「直接には」刺激されていないことになるからだ。どういうことか?C.エレガンスは匂い成分により微かな快感を得ているはずだ。しかしメスの鮭は、産卵の瞬間の快感を想定し、想像しているにすぎないからだ。想像するだけの快感に対してどうして行動を起こすことができるのか?おそらくこれが報酬系のもっとも不思議なところであり、自然の巧緻が隠されている。これが偶然にも出来上がることで生物は, seeking システムは成立したのである。ただし…。メスの鮭を褒めるのは少し早いかも知れない。メス鮭は単に、水流に逆らって泳ぐことに快楽を覚えるという仕組みを与えられているかもしれないからだ。その意味ではC.エレガンスと同じである。おそらく自然界に住む下等生物のseeking システムはおそらくことごとく、「本能」により助けられている。太平洋の深海から川まで何千キロも泳いで遡行するウナギの稚魚だって、おそらく微量の物質(塩分濃度?母ウナギの育った川の匂い成分?)の勾配に従って泳いでいるだけなのである。そういう装置を生まれながらに持っているわけだ。(そのような装置がある個体が「適者生存」したのだ。)
とするとやはり偉いのは、快感中枢に刺激を与えるためにレバーを押すネズミくらいにまで行かなくてはならないのだろう。ネズミはレバーを押すという労働自体を快感と感じないはずだ。それにレバーを押すような本能が備わっているわけもない。しかし一度覚えた快感を記憶にとどめて、それを目指して、それ自体は直接的な快感でないレバー押しにいそしむのである。なぜそんなことができるのだろうか?

 読者は(まあ、23人だろう)私がなぜこの問題にこだわっているか訳が分からないと思う。しかし私はこの問題をもう30年以上考えている。精神科医になって二年目、初めて受験勉強や医師国家試験を目指した勉強や研修などを離れて、自分で考える時間を手に入れた私が原稿用紙に延々と書き綴ったのが、この問題であった。人はなぜ快を求めるのか。春先から3か月かけて書き上げた論文は原稿用紙に数百枚になったが、私はそれを土居健郎先生に読んでもらおうと思ったのだ。彼はきっと驚いたと思う。学部のころから時々珍妙なはがきを出してくる医学生が、精神科に進み、まったくわけのわからない原稿の束を送りつけてきたからである。ワープロがまだない当時の原稿は、手書きしか方法がない。万年筆で書かれて、ホワイトで沢山消されて欄外に文字が書かれ、しかも全く読みにくい崩し文字(というより下手な文字)で「快がどうのこうの…」と書かれた研修二年目の医師のその文章は、およそ精神科とは関係のない、まったく引用のないエッセイでしかなかったからだ。(実は今もそれをとってあるが、恐ろしくてとても読めない。)


So called SP (30)

Actual Sessions

Actual process consisted of 10 consecutive sessions ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・and full of innuendos.