2015年11月22日日曜日

精神分析におけるトラウマ理論 推敲(1)


精神分析におけるトラウマの理論の発展は、ある意味では時代の必然と言える。関係精神分析におけるトラウマの議論のみならず、クライン派によるトラウマ理論も提出されている。ガーランド編 松木邦裕訳トラウマを理解する 岩崎学術出版社、2011Caroline Garland ed.Understanding Trauma: A Psychoanalytical Approach Karnac Books, London, 1998)
何か聞き覚えのある本だと思ったら、何と私は書評を書いていた!!!2011年のことだ。さっそく思い出してみよう。(一回分になった!)


書評:「トラウマを理解する―対象関係論に基づく臨床アプローチ」(ガーランド・C著/松木邦裕監訳,岩崎学術出版社)
 本書を非常に興味深く読んだ。トラウマの問題については、これまでは精神分析はその扱いに一歩遅れているという観があった。現代のフロイト派やクライン派がそれを本格的な精神分析の文脈にどこまで取り入れているかについて、評者はこれまで興味を持ってきた。本書はそれに対する格好の答えを提供してくれている。 
 
本書は1990年代にタビストック・クリニックに創設されたトラウマに関するユニットのメンバーのひとりであるキャロライン・ガーランドが編者となり、8人の臨床家が執筆したものである。本書の構成は、第Ⅰ部「概論」、第Ⅱ部「アセスメントとコンサルテーション」、第Ⅲ部「精神分析的心理療法による治療」からなり、全体が13の章に分かれている。そこには「なぜ精神分析なのか?」「ヒューマンエラーとは何か?」「症例への介入の実例、」「トラウマとグループ療法」などの重要なテーマが並ぶ。
 本書の特徴は一貫して英国のクライン派の立場から綴られていることである。その徹底ぶりは注目に値し、そのような路線でもトラウマの治療論が十分に成立することを教えてくれている。またそこではトラウマを治療することとは、それをトラウマとして成立させている生育歴や過去の対象関係を扱うことであり、そこから生じる転移とその解釈が主たる技法であるという主張がなされる。
 少し内容を要約してみる。トラウマとは、フロイトのいう刺激保護障壁が破られることにより生じ、クライン的にはそれにより外的な出来事が、内的な恐怖や空想の中で最悪なものを確証させることである。その最悪なものとは、保護的な良い対象群の失敗による死やその切迫による個人の壊滅ということだ。さらにビオンの視点からは、トラウマとはアルファ機能の働きが打ちのめされ、含まれている刺激の質と量をコンテインして消化することができなくなって破綻したとき生じる事態ということになる。そして実際のトラウマを受けることは、早期の対象関係上の問題を呼び起こすことになるという前提のもとに治療が行われる。
 実際の介入を知る上で、「第
4章 予備的介入:4回からなる治療的コンサルテーション」は非常に参考になる。この章では症例Aに対する4回の面接の記録が提示されている。そこでは患者の中で外傷により切り離されていた自らの破壊性を「再びつなぐ」ことの重要性と、治療者がそのために保障を与えることへの戒めが強調されている。4回の面接といえども転移についての解釈が重要な位置を占めている点も興味深い。また限りあるセッションを持つことは、失ったもの、人や万能感をワークスルーするという意味をも持つという。
 以上本書の内容を簡単にまとめてみたが、精神分析の立場から真摯にトラウマについて考えるためには、本書はこの上ないリソースを提供してくれることを信じる