2015年2月27日金曜日

子供の人格部分の扱い方の一部を推敲した

いわゆる「出癖(でぐせ)」について
子供の人格部分の「定着」を促進するべきか、回避するべきかは、相対的な問題である。つまりそれはケースバイケースであり、それが良いことか悪いことかは単純には決められないだろう。Aさんの子供の人格部分Aちゃんが、恋人であるBさんと一緒の時に出現することが多くなっている、という同じケースについて考える。それが是か否かは、実はAさんとBさんとの関係だけでなく、Aさんの生活全体を見なくては判断できないことなのだ。
  たとえばAさんがパートで本屋さんに勤めているとしよう。週3回、勤務時間は8時間だ。仕事は大体Aさんにはこなせる範囲だが、週末に客がたくさん訪れたり、クレームを付けるお客さんが現れたりすると、Aさんのキャパシティを超える緊急事態となることもある。Aさんは通常は一生懸命大人の人格で仕事をこなすが、そのような緊急事態では、時々意識や記憶が飛んでしまい、Aちゃんの人格が出現するというようなことが起きるようになったとする。
 Aさんのパート先でこのようなAちゃんの振る舞いがますます起き、それが明らかにBさんとの付き合いによりで触発されているとしたら、つまりBさんといることで明らかにAさんが出やすくなり、つまり「出癖」がついてAさんの仕事の害になっているとしたら、これは問題ということになろう。その場合はBさんとの間でAちゃんの出現を抑制するような何らかの手段を講じることでさえ必要になるかもしれない。

ただしこのような形でパート先で出始めたAちゃんがその後どのようにふるまうようになるかは、かなりケースバイケースである。そのうちAちゃんが年齢的に成長し、パートの仕事にも適応し、Aさんの役割をとってかわってしまう場合もありうる。また周囲がAちゃんをたしなめることにより、AちゃんはBさんとの間では出続けていても、逆に仕事中は抑制されて出にくくなる場合もあろう。
 私の臨床経験から言えば、AちゃんがどんどんAさんのパートの仕事を圧迫するというようなことは皆無ではないにしても、かなり少ないように思う。私個人としてはそれを体験してはいない。AちゃんがBさんの前で「出癖」が付くことはよくあることだが、仕事にまでそれが侵食することは少ないようだ。そのような印象があるからこそ、Bさんの前でAちゃんがより多く出るようになってきているという話を聞いても、急いでそれをとめたりはしないのである。それに万が一Aちゃんが仕事の「邪魔」をすることが多くなったとしても、それはおそらく治療者やBさんがAちゃんとそのことについてまず話してみる段階であろうし、それはAちゃんにおとなしく寝てもらうよりは積極的な治療的介入といえる。
 ただしここで一言注釈を加えておきたい。恋人や治療者の存在が子供の人格部分の出癖を生む場合、それがいわゆる「悪性の退行」を呈する場合がある。AさんがBさんと付き合うようになってから非常に我儘にふるまう人格Aちゃんが出てBさんを疲弊させる、ただし両親の前ではAさんはいつものようにふるまうということが生じる場合がある。その際はAさんがBさんと付き合うという環境そのものが退行促進的であり、本人もそれを止めることが出来ない場合が多い。もし同様のことがAさんと治療者との間で生じている場合には、治療の継続そのものを再考しなくてはならないであろう。しかしBさんがAさんにとって大切なパートナーである場合には、その関係を絶つという選択はそれほど簡単には取れないであろう。しかし長期的に見た場合にはAさんとBさんと安定した関係を築けないであろうという可能性もある。そしてももちろんこの注釈に関しては、これは解離性障害の患者さんにとってのみいえることではない。境界パーソナリテイ傾向を持つ人とパートナーとの関係一般に言えることである。