2015年2月25日水曜日

第12章 「再固定化療法を用いた治療」を少し推敲した

解離における『抑制』の問題。フクザツだ・・・・

本章では解離とTRPの関係について考える。本書の主たるテーマは解離性障害であり、第3,4章で論じたTRPについても、それが解離の治療に役立てる事が出来るかどうかについての検討のための準備であった。
 記憶の改編や再固定化について論じた後に解離性障害について考えると、改めて解離という現象の不思議さを感じる。ABという、互いに健忘障壁のある(つまりお互いに相手の行動を覚えていない)人格部分について、それに相当する神経ネットワークABを考えてみる。Aの活動にはネットワークAの興奮が、Bの活動にはネットワークBの活動が関与しているとするのだ。すると常にこの二つはその人の中で頻繁に興奮しているはずなのに、この二つがつながらず、共鳴もしないという現象が起きていることになる。あたかもつながる機会がありながらわざとつながろうとしない二つのネットワーク群、という印象を受けるのである。
 このABの疎通性の欠如はおそらくABの間にシナプスの形成が行われていないという状況とだけではないのではないかと私は考える。Aが興奮しているとき、Bが抑制される、という機制が生じているのではないか。そうでない限り、人格間のスイッチングは起きないのではないかと思う。そう、思考ないし記憶の神経ネットワーク間のつながりは、両者を結ぶ神経線維が興奮系か抑制系か、という問題も含む、実に複雑な話なのである。 
 ちなみに最近の日本の研究で、解離性の健忘の際、実際に海馬の抑制が生じているという研究がある。私たちが解離状態であることを思い出せない場合、すなわちたとえばAの人格部分がBが体験したことを想起できない場合、脳のある部分(この研究によれば前頭葉の特定の部分ということである)が、その記憶をつかさどる部位を抑えている、ということが生じているとのことだ。
 このことも私の上述の仮説を支持しているように思われる。
 すると解離の際の再固定化が目指す形は、
A
の興奮+Bの抑制 → Aの興奮+Bの抑制の解除 
という形を取ることになるのであろうか。つまりAという神経ネットワークが興奮と同時に抑制しているBの抑制を除去するということである。このことは例えば、Aという記憶がBという「ネガティブな記憶」を伴っていると考えてもいい。ここでいうネガティブな記憶とは、想起できない記憶 disremembered memory という意味である。