2014年6月16日月曜日

解離の治療論 (61)

 One brain, Two selves というネットで手に入る論文があるので読んでみる。
A.A.T.S. Reinders, E.R.S. Nijenhuis, A.M.J. Paans, J. Korf, A.T.M. Willemsen, and J.A. den Boer : One brain, two selves. NeuroImage. 20 (2003) 2119–2125
  この論文は画期的なものだ。2003年のもので少し古いが、かなりお金と時間をかけた研究である。オランダの解離の専門の先生方が研究したものだが、別人格の精神活動が、脳の画像にどのようにイメージされるかのついてPETを用いてしばれたものだ。
 研究の手順はこうである。11人のDID患者を対象にして、彼らに二つの自己状態になってもらう。それらはTPSNPS。前者は外傷性のパーソナリティ状態、後者はニュートラル(中立的)なパーソナリティ状態。これらはもともと構造的解離理論におけるEP(感情的な人格状態)とANP(外見上正常な人格状態)の分類に準じているのであろう。人格A、人格Bというよりは具体的でわかりやすい。そしてそれぞれに、あらかじめ録音しておいたトラウマに関係した文章と、ニュートラルな文章を聞いてもらう。そしてPETスキャンで脳の状態を知るわけだ。その際に活動している脳の場所が光って見える。としてTPSNPSにそれぞれの文章を聞いてもらうということを二度繰り返す。
 その結果わかったこと。TPSがトラウマの文章を聞くと、脳のある部分の血流量が下がったという。それらは右側の内側前頭前野(MPFC)、両側の中部前頭葉の中腹側部分(MPFC)であった。フーン、やはり解離すると脳の活動量が下がるというわけか。それと一番活動が下がったのが後部連合野(上部、下部頭頂葉の境目に存在する)であったという。それと視覚連合野。これらはいずれも両側の血流量の低下が見られた。しかしNPSがトラウマの文章を聞いても、そのような低下は見られなかったという。

 他方ではTPSがトラウマ文章を聞いた場合に、血流量が増加した部分もあった。頭頂葉弁蓋部Parietal  operculum PO)と島皮質(IG)がそれらの部位である。両方ともその興奮は高度の感情状態を表すという。つまりTPSがトラウマ関連の文章の朗読を聞いて情緒的に興奮していた様子を示しているのだ。ちなみにNPSの方は、トラウマ関連の文章を読まれたときと、そうでない文章を読まれた時で、特に脳の活動に差は出なかったということだ。