2014年3月25日火曜日

続・解離の治療論(11)

そこでまず大雑把な回答をするならば、「子供の人格はしばらく定着する可能性があるが、多くはやがて眠りに入る運命にあり、それにより社会適応がより難しくなる、ということは通常は生じない」ということだ。これは多くのDIDの患者さんたちと接した経験から私が言えることである。ただしそのうえで言えば、子供人格の「定着」を促進するべきか、回避するべきかは、やはりとても相対的な問題である。つまりケースバイケースであり、それが良いことか悪いことかは単純には決められないとうことだ。次のようなケースを考えてみよう。

A
さんの子供人格Aちゃんが、パートナーBさんを訪れることが多くなっている、というところまでは同じだ。ここでAさんがパートで本屋さんに勤めているとしよう。3回、勤務時間は一日8時間だ。仕事の内容は大体Aさんにはこなせる範囲だが、日によって客がたくさん訪れたり、クレームを付けるお客さんがいたりするとAさんのキャパシティを超えることもある。Aさんは通常は一生懸命仕事をこなしているが、そのような状況では時々時間が飛んでしまい、Aちゃんにスイッチしてしまい、ホワイトボードにお絵かきを始めたりする。そして同僚や上司が異変を感じて控え室でAさんに控え室で休むように言ったりする。Aさんはしばらくして控え室で横になっているときに目が覚めるというわけである。

実際にDIDの方でこのような形で仕事を維持することに困難さを抱えている人も少なくない。さて問題は、AちゃんのBさんの前での出現が「定着」していることが、Aさんの本屋さんのパート勤務にどのような影響を及ぼしているか、なのである。私がこの点を一番の問題とする理由は、やはり人は仕事や生産的、創造的な日常生活を送ることを最優先に考えるべきだと思うからである。
 その目で見ると、
実際にはさまざまな可能性が考えられる。Aちゃんの「出癖」が明らかに仕事の上でも起きてしまっている場合もありうる子供の人格は、最初はおっかなびっくり、しかしそのうちある程度安心して出るようになる傾向にある。それでは仕事中にも出るようになったAちゃんは、仕事を続けるという彼女の一番の目標にどのように影響するのだろうか。基本的には望ましいことではないだろう。その際は、仕事場での上司がAさんの様子を懸念して、Aさんに精神科受診を勧める場合があるし、その結果としてAさんは休職や退職を余儀なくされるかもしれない。 ただしAちゃんのBさんの前での定着により、逆にAちゃんが職場で出にくくなっている可能性もある。その場合はAちゃんは家でBさんと遊んでもらえることから、職場にまで出る必要がなくなったと考えるべきであろう。
20代後半の女性の患者。母親に子供の人格を拒否しないようにアドバイスをすることで、毎晩母親が添い寝をするようになった。その結果として、それまでは時々職場でも出ていた子供人格は昼間は寝ている状態となり、一日8時間の職務をこなせるようになった。その後数年間の間に徐々に夜の子供の人格はあまり姿を見せなくなりつつある。