2013年10月14日月曜日

欧米の解離治療は進んでいるのか?(5)

さて肝心の治療論に近づいているが、こんなことも書いてあって面白い。「医原性のDIDについてはかねてから活発な議論があった。しかし専門家の間ではこのことはつよく否定されている。」「DIDの症状の全体にわたって、医原性に作られたということを示すような学術論文は一つも出されていない。」ただし、とある。「他のいかなる精神科的な症状と同様、DIDの提示は、虚偽性障害や詐病である可能性がある。DIDをまねるような強い動因が働く場合には注意しなくてはならない。たとえば起訴されている場合、障害者年金や補償金などが絡んでいる場合。
ここに書かれているのは事実かと思うが、やはりDIDは詐病との関連が指摘されることが多いのはなぜなのか?例えば統合失調症についての鑑別診断に、詐病や虚偽性障害が言及されるだろうか? おそらくないだろう。ところが解離性障害となるとこれが出てくる。では実際に多いのだろうか? 私の感覚では決して多くない。というよりDIDが鑑別診断上問題となった数少ないケースは統合失調症の方が何人か、程度である。むしろそれよりもDIDを詐病と疑う臨床家の数の方がはるかに多い、という印象である。これも不思議なことだ。解離性障害の性質として、詐病や虚偽性障害を疑われやすいという特徴があると考えるしかないであろう。
<治療の目標>

最初にこう書いてある。「統合された機能が治療の目標である。DIDの患者は日常生活に責任を分担しているアイデンティティ達からなる、一人の成人の人間全体 a whole adult personとみなされなくてはならない。」「患者は別れているという感覚を持つにもかかわらず、患者は単一の人間single personであること、そして一般的には患者を構成するアイデンティティの一人あるいは全員によるいかなる行動についても、その人全体a whole personに責任を持たせるべきであることを念頭に置かなくてはならない。たとえ患者がその行動について記憶喪失があったとしても、あるいは自分がそれをコントロールしていたという実感がなくても、である。」
 うーん。それなりに注意深く書かれた文章であり、やはり問題がないわけではないか。最初の「統合された機能が治療の目標だ」はその通りである。人格の統合、と言わずに機能の統合、というところがミソである。要するに人格同士がお互いに協力関係にあり、全体として機能出来ていればいい、というわけである。