2013年10月6日日曜日

「再固定化」概念の見直し(2)

昨日は一日中いやな雨。津田ホールで精神分析協会による「公開講座」に出席。北山修先生司会、藤山直樹先生との討論という形を取った。久しぶりに人前で話すのが非常に気が進まないという体験を持った。基本的に自分の考えを伝えることは好きだ。でも人前で話していて楽しくない。注目を浴びてもうれしくない。高揚感もなく、でもやるべきことをこなしている感じ。でも北山先生にいっしょにラジオ番組をさせていただいた時は楽しかった。つまり人目にさらされることがうっとうしいのである。書く、ということはその種の問題が除外されるから割と無理なく自己主張が出来る。
ちなみに昨日の公開講座、結果的にはとてもいい刺激を受けることが出来て楽しかった。

再固定化と新たなネットワークの形成
ここで私の考えはいよいよ訳がわからなくなっていく。再固定化って、そんなに特別な現象ではなく、たとえば気付きとか、「あ、そうか!」体験で起きていることとあまり変わらないのではないだろうか? これについて少し考えて見よう。
 そもそも私たちがある事柄について決して忘れないような体験をする時、脳の中で何が起きているのか?例えば長い間考えあぐねていた問題にあるヒントが与えられ、そこから一気にその問題が解決したとしよう。いわゆる「あ、そうか!」体験。これは一度それが生じた場合には、二度とそれを忘れることはないだろう。その意味ではその問題に関する思考そのものが変質し、再固定されたということになるのではないだろうか。しかしここで再固定化された際の脳の中の機序はある意味では容易に想像できることだ。「心から見える脳」である。(ナンの事だ?) つまりはちょうど円環の最後がつながった状態。神経回路が形成されて、ネットワークAとネットワークBがつながった状態。これによりABが同時に興奮が可能になった状態である。ああ、Aって、結局Bなんだという体験。ちょうど水をたたえた二つのダムの間に掘られたトンネルのようなものだ。シャベルによる最後のひと堀りで両者がつながる。それと同じようにABだったんだという体験が一回でも起きたら、それ以降ABが別個に興奮することはない。必ず同時に興奮するのだ。しかしそれにしても水路の場合は、実際にトンネルがつながるのだが、神経ネットワークに関しては、なぜ一瞬生じた疎通が一生続くのだろうか? そのために、一回の記憶が半永久的に続く状況を思考実験を通して考えて見る。
 例えばあなたがパソコンの入力画面で4ケタのパスワードを求められ、適当にそれをでっち上げたとする。あいにく書きとめるメモ用紙もペンもなく、しばらく頭の中で転がしておかなくてはならない。何しろ一度忘れたら大変なことになる、貴重なパスワードだとしよう。頭の中で何回も唱えることで当座はそれを保つが、何か別の事に気を取られるとわすれてしまう。これはいわゆるワーキングメモリーの状態だ。最初の数分間だけ持つ。そのうち海馬の働きで長期記憶に引き継がれる。こうなるとしばらくは忘れない。それをしっかり保っていれば、数週間で大脳皮質に移される。これで半永久的な記憶になる。
 このプロセスで起きるのは、たとえば3.5.4.1という数字のつながりであり、それを形成するエングラム、つまりは「サンゴーヨンイチ」という音ないしは視覚像だが、もちろんサン、ゴ、ヨン、イチは別個に知っているので、それぞれをつなぐ繋ぎ目の部分の接続がより確固たるものになって行くことになる。4つのリングの結び目だけ新しく作ればいいというわけだ。このプロセスは再固定化とは関係ないが、再固定化が生じる際に脳に何が起きているかを知る手掛かりになる。

さて「あ、そうか!」体験はそれまでの思考が一歩進んで変質した、という意味では再固定化に近いプロセスではどうか。やはり同じようなことが起きると考えるべきだ。まず、「そうかABなんだ!!」という感動があるだろう。そしてそこで扁桃体の興奮と共にワーキングメモリーはほぼ自動的に回転し、長期記憶の形成にまでスムーズに流れて行く。これは先ほどの「パスワードを忘れたら大変なことになる!」という人為的なモティベーションの代わりに自然な形で生じる、つまり感動によるワーキングメモリーの維持ないしは長期記憶の形成である。でもパスワードの場合と本質的には変わらない。というよりはパスワードでは3本のかけ橋、神経回路の形成が必要だったが、この場合はもっと単純な、エングラムABとの間の一本のかけ橋になぞらえることが出来るのだ。
  ここで扁桃体による興奮の部分を考えて見ると、それはミスマッチによる意外性が関係しているとは考えられないか? ミスマッチによる「えっ、そんな見方があるんだ!」「なに?そんな反応ってあり?」みたいな体験が扁桃体を刺激し、そこで新たに形成された神経回路を強化するということではないだろうか
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