2013年9月9日月曜日

トラウマ記憶の科学(6)


私の考えではすでにエビデンスとして証明されている治療手段、たとえばPTSDにおける暴露療法などはこれを首尾よく起こしていたということになるだろう。

さてここから本格的に、以下の本を読んでいくことになる。Bruce Ecker , Robin Ticic , Laurel Hulley,Unlocking the Emotional Brain: Eliminating Symptoms at Their Roots Using Memory Reconsolidation. Routledge; 2012. すばらしい本だ。


本書には、結局次のような治療の手法が描かれている。全部で6段階からなるという。
1.症状を同定する
2.治療対象となる学習内容を聞き取る
3.学習内容を不確定なものにするような知識(DK)を同定する
4.症状を必要とするようなスキーマの活性化
5.DKの活性化
6.23の反復

ここでこの本で具体例が載せられているので紹介しよう。Aさんという30代の男性。仕事で自己主張をするのが苦手であるという。何か言おうとしても、自分は意味のないことを主張し散るのではないかと思ってしまい、口に出ないという。そこでセッションで、実際に職場で何かいいアイデアを出してみたことを想像してもらう。すると「ああ、自分は嫌われてしまった!」と感じられた。治療者がもう少し聞いてみると、Aさんは「そうだ、自己主張の強いあのろくでなしの父親のように自分は思われてしまっているんだ。」と言った。ということで2の「治療対象となる学習内容」とは、自己主張すると、父親のようにいやな人間に思われる、ということになる。これをもう少しはっきりと言葉に直すならば、「少しでも自信を持てると、それは自己中心的で傲慢であり、父親になってしまう。だから自分は決して自信を持てない。」となる。この分は治療者がAと話し合って決めたもので、Aはこれを口に出して読んだ際に、心から、というよりは体のレベルで「この通りだなあ」と感じられることが大切であるという。治療者はこれをAにインデックスカードに書かせて、次の治療までに何度も読んでみるように指示した。