2013年8月29日木曜日

トラウマと解離(1)


解離性障害とトラウマとはかなり密接な関係がある。解離とはトラウマの結果として生じる、というのは欧米の精神医学では常識である。トラウマという概念と解離とはほとんどセットになっているといっていい。
 しかし解離性障害として幅広い種類の障害と考えた場合、このトラウマとの関係が見えにくくなってしまうことも確かである。トラウマの変わりに「ストレス」と言い換えると、解離との関係を説明しやすくなる。ではトラウマとストレスとはどのような関係なのか?「トラウマチックストレス(トラウマ性のストレス)」という言葉もあるぞ。まあ心にかかる負荷、重圧という感じか。ではストレスの大きさが増すと、トラウマになるのか?そうともいえない。トラウマに必要な要素は、インパクト、衝撃なのだ。ショック、と言い換えてもいい。それにより心のあり方が瞬時に変化をこうむるというニュアンスがある。すると解離にはこのインパクトが必要だろうか?うーん、難しい問題だが必ずしも必要ではないような気がする。もちろん解離という現象そのものはスイッチングのようなもので、かなり短い時間に開始し、また短い時間で回復、ないしは別の解離の状態に移行する。しかしそれを引き起こすストレス事態は、慢性的に生じていたりする。それが一定以上の時間続くと、あるいは一定以上の強度になると、スイッチが入る(切れる)、ということも生じる。それはたとえば強い衝撃やトラウマを受けて解離状態になる、というプロセスとは異なるのだ。
 今「衝撃やトラウマ」、という言い方をしたが、衝撃とトラウマは異なることに気をつけてほしい。たとえばDIDの方の前でパチンと指を鳴らす、パンと手を打ち鳴らすことで人格の交代が生じるという場合、それらの刺激は一種の衝撃ではあってもトラウマとはいえないのだ。

その他の例としては、たとえば成人男性に多い解離性遁走。仕事に絡んだストレスが発症にかなり大きな意味を持っているようだ。解離性遁走の一部は明らかにDIDの一つの表れと見られるが、そうでないというケースも多い。