2013年6月23日日曜日

DSM-5における解離性障害 改訂版 (2)

昨日は江戸川区船堀というところで、日本家族研究・家族療法学会のシンポジウムに参加してきた。中村伸一先生、相田信男先生、渋沢田鶴子先生、渡辺俊之先生とご一緒した。楽しい体験であった。家族療法の先生方は皆温厚な方たちという印象がある。スカイツリーは割と近くのはずなのに、全く見えなかった。なぜだろう・・・・。


1離人・現実感喪失障害について 

まずは離人・現実感喪失障害 Depersonalization/derealization disorder についてである。そもそも離人・現実感喪失障害とは何か?自分の体(離人体験の場合)や世界(現実感喪失体験の場合)に対して、普段は感じないような距離が出来てしまったという奇妙な感覚である。従来のDSMではこれら二つを個別に扱っていたが、DSM-5ではこれを離人体験、非現実体験を個別に扱うことなく、同時に生じる一つの体験として扱うことになるというのだ。この離人・現実感喪失障害という障害単位を設けることでそれ以外の解離性障害との差別化がはかられることになるが、それは二点においてであるという。一つは、離人・現実感喪失障害では記憶やアイデンティティの解離ではなく、「感覚の解離」が主たる症状であること。もう一つはトラウマの体験がすく直前にあり、それへの反応として生じること、とある。そしてこれに関連して、基本的にはトラウマ体験に対する解離反応には3つのタイプがあるという説がある。①そのトラウマから、身を引き離すこと(離人・現実感喪失障害のことを指す)、②トラウマを忘れてしまうこと(解離性健忘を指す)、③現在の自分のアイデンティティから記憶を分けてしまうこと(DID,解離性のフラッシュバックを指す)。の三つである。そして離人・現実感喪失はその一つとして概念化されるというわけだである。
 この離人・現実感喪失に関しては、その生物学的特徴が得られている。それは a. 後頭皮質感覚連合野の反応性の変化、 b. 前頭前野の活動高進、 c. 大脳辺縁系の抑制、とされる(Simeon D, Guralnik O, Knutelska M, Yehuda R, Schmeidler J. 2003. Basal norepinephrine in depersonalization disorder. Psychiatry Res. 121:9397。ちなみにこれらの所見は、後に述べるPTSDの「解離サブタイプ」と基本的には重複する内容である。
 また離人・現実感喪失についてはHPA軸の異常も見られるという。すなわちHPA軸すなわち視床下部―下垂体-副腎皮質軸の反応は、HPAは過敏反応(高いこる地ぞーるレベルと、フィードバックによる抑制の低下)のパターンを示すということだ(Simeon D, Guralnik O, Schmeidler J, Sirof J, Knutelska M. 2001. The role of childhood interpersonal trauma in depersonalization disorder. Am. J. Psychiatry 158:102733, Simeon D, Knutelska M, Yehuda R, Putnam F, Schmeidler J, Smith LM. 2007. Hypothalamic-pituitaryadrenal axis function in dissociative disorders, post-traumatic stress disorder, and healthy volunteers. Biol. Psychiatry 61:96673) 。(参考までにうつ病やPTSDは逆に鈍化した反応パターンを示すとされる。)このような研究結果から分かる通り、離人・現実感喪失障害がクローズアップされた背景には、この大脳生理学的な所見がみられることが大きく働いているようである。