2013年3月31日日曜日

DSM-5と解離性障害(1)



 アメリカに、デービッド・シュピーゲルという精神科医がいる。世界的な解離の専門家で、私はかなり前から彼のファンであった。写真まで出してしまおう。
ドクター・シュピーゲルは2013年の5月に発行となるDSM-5における解離性障害の編集の中心人物である。大昔、ハーバーと・シュピーゲルという催眠の大家がアメリカにいて、その息子さんがあとを継いだわけだ。このたび彼とメールでコンタクトを取ることが出来、いくつかの貴重な資料をいただいたが、それと言うのも「DSM-5 における解離性障害」というテーマで、どうしてもブログに書かなくてはならない事情が生じたからだ。夏までに何とか考えをまとめないと、人に迷惑をかけてしまうことになる (ナンのことだ?) こういうことでもない限り、気の弱い私がこんな高名な先生にメールなど送れないではないか。

DSM-5は前回のDSM-IV1994年の発刊)から20年近くも経ったこともあり、相当の情報がつまり、分厚くなりそうで憂鬱になっていたのだ。(チラッと見たBPDの診断基準など3倍くらいの長さになっていた。)しかしDSM-5がいかに書き上げられるかは、欧米の精神医学の最先端を知る上でも非常に貴重なものである。そして解離の世界でも、このDSM-5に向けて少なくとも欧米では英知が結集されつつあるようである。そこでこのたび彼から送ってもらった4編の論文をもとに、このテーマで少しまとめてみたい。何回続くかわからないが、私が書くことのほとんどが、ドクター・シュピーゲルの受け売りと思っていただきたい。
Editorial: Dissociation in the DSM-5 Journal of Trauma and Dissociation 11-261-265, 2010 を読んでみる。この論文は、DSM-5野発刊を3年前にしてかかれているので、これからかなり変更が合ったことになる。しかしここでシュピーゲル医師が書いていることが、議論の流れを知る上で興味深い。解離性障害はいつの時代になっても、なかなか臨床家から受け入れられないというところがあると述べている。その上でDSM-5 においては、解離性障害は、しっかり掲載され、しかも「トラウマ関連障害」として、適応障害、ASD,PTSDと解離性障害を含むことを考えているという。ちなみに私の知る限りでは、結局解離性障害は、「トラウマ関連障害」には組み込まれなかった。しかしそれでもこの種の議論があったことを知ることは貴重である。
ちなみにトラウマ関連障害については、おそらくこのカテゴリー自体が、本来の、記述中心で因果論を配するというDSMの精神からの回帰と言うことはいえるであろう。
ではどうして解離性障害が「トラウマ関連障害」にはいらなかったかについては、やはり解離性障害の診断基準のどこにも、トラウマの既往ということが歌われていないという点は大きいと言える。ただしこれも最終的には没になったとはいえ、DSMPTSDの「解離タイプ」を組み込むというアイデアもあったのである。
ちなみにDSM-5で解離性障害についてどのような診断基準上の変化があったかについては、大体次のようになっている。
いわゆる「非現実体験」を離人体験からわけることになった。すなわちこれまでの「離人性障害depersonalization disorder」の代わりに、 「離人性・非現実体験障害(仮邦訳)depersonalization/derealization disorder」となった。
いわゆる「解離性遁走dissociative fugue」が、これまでのような独立した診断ではなく、「解離性健忘dissociative amnesia」の一種、ということになった。
いわゆる「解離性同一性障害」の診断基準が少しいじられた。特に人格の交代のみならず、人格の憑依possession もそれに入れることになった。また人格の交代が、自分で、または他人の観察により報告されること、となった。また記憶のギャップは、単に外傷的なことだけでなく、日常的なことにも起きることを認めた。
いずれも専門的なことであり、余り従来と変わらない、ということである。