2012年7月25日水曜日

続・脳科学と心の臨床 (59)

再びアラン・ショアの論文を読み出す。彼が強調しているのは、右脳のOF(眼窩前頭部)における共感の機能である。この部分は倫理的、道徳的な行動にも関連し、要するに他人がどのような感情を持ち、どのように痛みを感じているかについての査定を行う部位であるという。(わかりやすく考えるならば、脳のこの部分が破壊されると、人は反社会的な行動を平気でするようになるということだ。)その意味でOFは超自我的な要素を持っているというのがショアの従来の考え方であるという。



眼窩前頭皮質(http://en.wikipedia.org/wiki/Orbitofrontal_cortex より)
さらにはOFは心に生じていることと現実との照合を行う上でも決定的な役割を持つという。自分が今考えていることが、現実にマッチしているのかという能力。これと道徳的な関心という超自我的な要素とは実は関連している。今自分が言い、行っている事柄が、現実の周囲の人間や周囲で起きている事柄にとってどのような意味を持つのか。いわば外界からの知覚と、内的な空想とのすり合わせを行うという非常に高次な自我的、超自我的機能を行っているのもOFであるわけだ。
読者はここで、右脳の担当する無意識、ということと自我、超自我ということは矛盾していると感じるかもしれない。しかしここは間違えないでいただきたい。意識、前意識、無意識と言うのはいわゆる局所論的モデル、自我、超自我、エスとは構造論的モデル、と言われる。両方は別々のモデルとして心を説明し、しかも両者にはオーバーラップがある。たとえば自我の働きの中にも無意識的なものもある、という風に。ショアが提出しているモデルは、右脳が左脳の支配下で無意識的に、つまりバックグラウンドで実にさまざまな情報処理を行っているという事情なのである。