2012年7月19日木曜日

続・脳科学と心の臨床 (53)

DBSについてもっと知りたければ、機械を扱っている専門のMedtronicという会社のHPに行けばいいだろう。ここに行くと、現在DBSの適応となっているものは主として、PDの他に本態性震戦(ヘンな名前だが、要するに原因不明の手の震え)、そして例のジストニアであることがわかる。そして治療の主眼は、PDジストニアに関しては、STN subthalamic nucleusと内側淡蒼球globus pallidus interna、本態性震戦には視床の視床中間腹側核腹側間接核ventral intermediate nucleus of the thalamus をターゲットにしているということだ。(全部脳の深いところにあり、働きは詳しくはわかっていないが、体の動きを調節することに役割を果たしている部分である。)ちなみにこのMedtronicという会社、心臓のペースメーカーをはじめとした医学機器の最大手ということである。DBS等にもこんな会社が入って利益を競っているということだ。

 ここで深部脳刺激、という検索語で日本のサイトを調べてみると…あるある。Medtronicの日本支社メドトロニックのホームページや、日本で深部脳刺激の術式を行っている順天堂大学、東京女子医科大学、名古屋市立大学、山口大学、藤田保健衛生大学など。2000年4月からは、PDの治療としては保険適応にもなっているという。(英語のサイトだけ見る、などと嘯いていた私が愚かであった。)写真入りの非常に細かい手術のプロセスについては、http://www.twmu.ac.jp/NIJ/DBS/DBSOPE.pdf を参照。最初からこちらを見ていればよかった。一見の価値あり。ただし少し気持ち悪くなるひとがいるかもしれないが。

いろいろ見た後での感想。DBSについてはPDに対する効果から始まり、その効果自体が確立しているということもあり、一つの治療法として定着している。しかしそれ以外の効果については、たとえばうつ病のそれについてもこれからまだまだ可能性が広がっているという印象を受ける。

このように考えるといい。脳とはきわめて複雑でその仕組みの細部は全然わかっていない精密機械のようなものである。そこのどこのボタンをいじれば何が起きるかはわかっていないし、それを知るための人体実験は現実には不可能である。その昔一人の勇気ある人間がそれをやり、PDに有効であることがわかった。でもそれ以外の部位を刺激して他の病気の治療を試験的に行うことには極めて慎重でなくてはならないし、患者の人権の尊重が叫ばれる現在では、実験的な試みは更に難しくなっているというところがある。言いかえれば、これからどのような発展があるかわからないが有望な分野である。