2011年4月3日日曜日

治療論 24 の続きの続き 「患者様」はさすがに言わない

それは私だって一方では治療者、医者などと言いながら、「患者さん」と「連発」することには抵抗がある。治療者と患者は英語でthe therapist and the patient とシンプルだ。どうして患者に「さん」をつけるのだ、逆差別ではないか、といえばそのとおりなのである。ただしたとえば「患者呼ばわりされたくない」「私を患者扱いするの?」という表現が成り立つ以上「患者」の立場が「できることなら身をおきたくない」ものであり、だからこそ「患者」という呼び捨てにはそれこそ「コンデセンディングcondescending 」なニュアンスがつきまとう。それを少し和らげる意味での「さん」づけなのだ。だから私は「患者様」とは言わない。(というか、医者と患者様、という言い方をしている著作を見たことはないから、言わずもがななのだろうが)。
私は土居先生のコメントはおそらく一昔前の医者の態度と現在のそれとの違いを反映しているように思う。一昔前は、医者は、治療者は偉ぶっていた。社会の扱いがそうだったのである。高等教育を受ける人が非常に限られていた時代は、医学部を出て医師の資格を取るのは稀有のことだったのである。その時代に、「医師と患者は対等である」と主張することは誰にも違和感を与えていたのであろう。しかし時代は移り、人は意味のない権威に必要以上の敬意を払うことをやめるようになってきている。時代はとにかくそれまで守られてきた非合理的な慣習が消えていくという方向にしか流れないのだ。
その文脈で言えば、私は心理士さんたち(どういうわけか「さん」、がつく。原因は不明である)が患者さんについて語るときに使う敬語が非常に過剰に感じてならない。スーパービジョンのときにも「~と患者さんがおっしゃった」と報告されると、それを余計なものに感じる。これは私が今度は「土居先生的」になっているということなのだろうか?