2010年7月9日金曜日

居眠りのこと

仕事柄いろいろな講演や執筆があるが、今回は少し困っている。関係性理論についてのレクチャーだが、これが容易ではない。関係論、と言ってもピンと来ない方にはあまり意味がないが、知る人ぞ知る分析関係の理論である。どうして難しいかというと、理論が難しいというよりは、それなりに聞く人の興味をひくようなレクチャーを用意することが難しいのだ。講義を仕事の一分としてする人間にとっては、聴衆が明らかに飽きてしまうようなレクチャーは、それをする方も辛いものである。講義をするようになってよくわかるのは、聞いている人の覚醒状態だ。A君、私は知っているよ。私が少しでも理屈っぽいことを言うと、すぐまぶたが重くなることを。Bさん、私があなたが授業が始まってだいたい一定の時間にさしかかると、10分くらい「お休み」に入ることを。
私はとにかくよく寝る学生だった。高校の漢文の授業など、先生が授業の始まりにクラスに入ってくる時と、最後に出ていくときのことしか覚えていない、という講義がなんどもあった。だから私は寝る学生を責めることは一切ない。そんなことをするとバチが当たる。ただ多くの人に寝られると、ちょっとキツイ、というだけである。
寝る人の中で一番困るのは、体幹がフラフラ状態になる人だ。このような人はあまりいないが、いるとすごく周りが困る。
帰国したばかりの頃、形成で西船から西日暮里までの距離を朝早く乗ると、ある若い女性が座っていることが多かった。私がちょうど乗ることにしている両の、ちょうど私が座ることを目指している席あたりに、彼女はいた。そして彼女は、ふと眠気が差すとともに、体幹の力が抜けるようなのだ。すると体全体が倒れるようにして、一方に傾く。普通ちょっと眠いというのは、まぶたが閉じ、手に持っている雑誌を落としそうになったり、携帯の文字を押しつづけになる、というふうにして始まる。ところが彼女はその時すでに、フラーっと、隣の人に、ちょうど左右均等の確率で倒れかかる。(彼女なりの配慮、だろう。)私なこの女性を見ていると、腹がたって仕方がなかった。そしてある日、運命の日が来た。彼女の隣の席が開き、私が座ることになったのだ・・・・。(続く)